コラム

経験者が語るIT部門運営の秘訣

【第2回】
プロジェクト成功のカギとなる「ERP」と「SIベンター」の選定

 第一回目は、「基幹業務システム構築プロジェクトの成功に向けて」と題してどうすればプロジェクトを成功させるかについて考察しました。
 今回は、それに関する事項として、プロジェクト成功のカギとなる「ERPの選定」と構築のパートナーとなる「SI(システムインテグレータ)ベンダーの選定」について考えてみたいと思います。

プロジェクトの成功とは?

 「基幹業務システム構築プロジェクトの成功」とは、次の内容と考えます。

  1. 目指した業務プロセス改革が進み目標のROI、KPIが達成される
  2. プロジェクトの社内決裁時の投資額、納期が遵守される
  3. 利用現場にて混乱が少なく導入でき、順調に新業務プロセスが遂行される

 したがって、これらの要素が実現できる視点でERPやSIベンダーの選定を行う必要があります。

選定における重要事項

 プロジェクトの成功に向けて選定を行うためには次のような事項が重要です。

(1)実現したい要望に対する評価

 下記観点で提案を求めて多角的に組織評価することが必要です。

  1. 業務改革・あるべき業務要件の実現度
  2. 業務要件を実現するためのシステム機能要件の充足度
  3. コスト・リリース時期など希望条件の充足度
  4. SIベンター・ツールベンターの評価
  5. 障害対応、保守/小規模改修、BCP、性能、VersionUpgrade等の非機能要件の充足度

(2)評価時の留意点

 SIベンダーの提案説明を評価する上で留意が必要なのは下記の3点です。

  1. 評価にあたっては、提案内容について印象度や感覚、思い込みではなく事実確認による客観的評価を行う必要がある
  2. そのために、提案資料の説明だけでなく、RFPで指定した業務領域について実機デモストレーションを行い、要求機能やあるべき論の実現度合について画面の動きを見て、説明を聞いて根拠を持って評価することが重要である
  3. 使用する用語の意味違いが無いように確認して進める
    • 自社で使用している用語について、ERPやSIベンダー提案の内容に同じ用語があっても意味合いが異なる場合がある。よって、視覚的(資料、ポンチ絵等)な具体的内容や具体的な例示等によりにより双方確認していくことが重要である
      Ex. BOMの構造、工程/工順、製番手配、仕込生産/見込生産、etc
    • 用語に関する認識の齟齬があると、アドオン・カスタマイズや後々の仕様変更の問題として発展するリスクがある

具体的な評価視点

 SIベンターからの提案に対する評価・対応として、下記の点が重要な視点と考えます。

  1. 経営課題の解決に向けて、あるべき新業務プロセスが実現できるか?
  2. 標準機能による業務プロセスの再構築がどこまで可能か?
    • 短期間での実現、開発費の妥当性の観点で、ERP標準機能を主に構築することが望ましい(SIベンター提案の比較も容易となる)
    • アドオンカストマイズは初期費の増額要素になるうえ、運用支援費としてのランニングコストも大きくなる→ 初期コスト・運用コストの適正化を図る
  3. 構築視点だけでなく、成功に向けて頼れるパートナーとなるSIベンダーか?
    • これについては、この後で詳しく記載します
  4. 対社内、対ベンダー(選定コンペティション時の参加)における採用結果に対する納得度・合意性を如何にとるか?
    • 採用結果の根拠、選定基準をきちんと示し、情報を社内共有化して公平に選定を進めて、経営、幹部、社内関係部署に納得性と合意性を持つ取組が必要
    • またコンペティション参加ベンターに対して、採用・不採用に関わらず、具体的な評価結果を通知していくことが重要

提案依頼から評価までの具体な流れ

 体験上、前記の評価視点に対しては次のアクションが必要です。

  1. 解決したい事項やあるべき姿・実現したい事項についてRFP(提案依頼書)を策定する
  2. 数社のSIベンダーを対象にコンペティションによる選定を実施する
  3. RFPを元にスコア形式の評価表を作成して社内合意をとり、評価を実施する
  4. 提案内容の評価者には、評価基準、方法、レベル合わせ、留意事項などの研修を実施する
  5. 提案説明時には、自社のビジネスの流れにマッチしたデモストレーション実施を要請して、標準機能による実地説明により評価を実施する

パートナーとなるSIベンダーの評価ポイント

 システム開発だけでなく全般で、ユーザの知見や経験の不足を補ってプロジェクトを成功に導いてくれるSIベンダーをパートナーとして選定することが重要であり、そのためには下記を評価する必要があります。

  1. 業務知識、知見がどこまであるか?
    →業務運用観点の質問を行い、システム開発の視点でだけでなく、「業務運用の視点」「業務課題を解決する視点」で対応してくれるか?を確認する
  2. RFPに基づき、可能な限り概算見積金額を精度向上する取組をしてくれているか?
    →選定時の見積額と契約後の仕様確定見積額の乖離が大きいと、決裁時のROIの前提条件が変わってしまい大きな影響がでる
  3. 開発だけでなく導入準備、導入後フォローなどの支援について豊富な経験があるか?
    →順調な稼働を目指した対応について何をどれだけ実施してくれるか?

まとめ

 ERPやSIベンダーの選定については、色々な考え方や取り組み方があると思いますが、今回は私の今までの経験からこのような取り組みが望ましいという事をお話ししました。
 特に「目指すあるべき業務像や解決したい事項をまとめたRFP」の策定、選定評価における「妥当性、公平性・納得性」、それに対応するための「評価方法と基準」については重要と考えます。
 選定時のご参考にしていただければ幸いです。

著者プロフィール

オフィスJOE

小林 譲 氏
Yuzuru Kobayashi

  • 1980年 富士通株式会社入社
  • 1985年 大日本スクリーン製造株式会社入社
    (現在の株式会社SCREENホールディングス)
  • 2009年 同、情報システムグループ グループ長
  • 2014年 SCREENホールディングス IT企画室長
  • 2015年 SCREENシステムサービス 代表取締役社長
  • 2019年 同、会長
  • 2020年 同、顧問(非常勤)
  • 2021年 同、顧問退任
  • 現 特定非営利活動法人 CIO Lounge 理事