コラム

匠が斬る2

[経営管理における今後の視点]
第1回_ KPIとPDCAのレベルアップ

1.製造業におけるKPI

 製造業においては、品質(Quality)、原価(Cost)、納期(Delivery)いわゆるQCDの確保に加え、安全(Safety)、環境(Environment)、CSR(Corporate Social Responsibility)という社会的責任を負いますが、近年は多くの企業がDXを用いた業務改革をテーマにしています。 

 その中でKPI(Key Performance Indicator)の充実は大きく期待されている分野の一つです。これまで以上にその活用の幅や深さを広げたり意思決定のタイムリー性を向上させることによりマネジメント(PDCA)の強化を図ることが狙いです。市場や環境への対応のスピードと柔軟性を大幅に向上させるという命題は避けては通れません。

2.KPIをベースとしたPDCA

 KPIをベースとした有効なマネジメントを実現するためには、どんな管理や意思決定をするのか、またどんなアクションを取るのかといった狙いを明確にし、そのためにはどんな形でデータを集約すべきか、どんなタイミングで提供すべきかを検討していくことが重要です。

 例えば、工場部門でよく活用されているKPIには次のようなものがあります。

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 工場でのKPI活用の重要なポイントの一つはアクションが取れるように情報提供を行うことです。仕組みはあっても情報の細かさ、タイムリーさ、精度などが今一つであるため十分な問題把握や迅速な意思決定に繋がっていない例はまだまだ多くの企業で見受けられます。近年の進化したICTを活用して、このような点を補強しPDCAを強化できるかが競争のポイントの一つです。

3.KPI活用のポイント

 KPIをベースとしたPDCAが有効に回らない原因の一つが運用や責任の曖昧さです。製造業ではライン部署とスタッフ部署を持ち、グローバル企業では、これに地域軸部門が加わり共同で達成責任を負う場合も多くあります。簡単ではありますが、下表のように管理の頻度、実施者、診断の方法などをきちんと決めて管理を進めることが重要です。

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 アクションを取りやすくするという観点では、対象者に応じた情報提供の工夫が有効です。在庫を例にとると、工場長はトータルでの在庫金額をKPIにし、生産管理には在庫日数、現場監督者は現物の在庫個数やトン数などのデータを提供することなどです。情報提供のタイミングにも改善余地があります。例えば、現場で問題が起きるとまずは担当者や監督者に情報が行き、そこからのエスカレーションで管理者が知るというのが今の通常ですが、現場の細部の問題であっても必要な情報は管理者へも同時提供することにすれば、対応の意思決定やアクションを早めることが期待されます。

 もう一つ忘れてはならない点はデータべースの構築です。定型情報に加えて非定型情報も加わり、多様で大量のデータを取り扱う時代になってきています。KPIで活用する情報を正確かつタイムリーに提供していくには、様々なシステムを結ぶデータ統合、および変化への柔軟かつ迅速な対応を実現するためのデータベースが重要な要素です。多くのグルーバル企業がこの問題に対して悩みを抱えています。どこでどれだけのデータを持つのか、データ構造をどうするのか、どのように追加、更新、削除していくのかなど、データマネジメントの重要性は高まっています。

著者プロフィール

竹内 芳久 氏

ワクコンサルティング株式会社
エグゼクティブコンサルタント

竹内 芳久 氏 Takeuchi Yoshihisa

主なコンサルティング実績等

オペレーショナルエクセレンス研究所 代表パートナー
◆コンサルティング分野
ICTを活用したプロセス改善から、企業価値向上視点での生産部門 KPIの設定と活用支援、バリューストリーム視点での改善支援、マネジメント改善及び人材育成の支援など
◆著書その他
・スマート工場のしくみ(日本実業出版)
・マニュファクチャー2030未来の製造業(日経BP)
・講師: 日中協会、大阪府工業会、大学非常勤講師など