コラム

経験者が語るIT部門運営の秘訣

【第5回】
脱レガシーシステムの壁と克服に向けて

 長期間稼動している基幹業務システムはレガシーシステムとよばれています。レガシーシステムに関して筆者が耳にする悩みは、基幹業務システムの刷新を企画したものの、なかなか経営層の承認、事業側の理解が得られず進展が望めない状況になる、ということです。
 筆者自身も同様の経験を持ち、悩みながら失敗を繰り返しました。今回は、その振り返りも踏まえた上で、どのようにしてこの問題を打破できるかを考察していきたいと思います。

 人材育成は、組織を維持しさらに発展していくために大変重要なミッションです。しかしながら、育成を進める上でカリキュラムや手法、計画に重点を置くことが多いものです。
 今回は手法や計画以前の問題として、筆者の体験から気づいたことや、人材育成を円滑に進めるための推進術・本質的なポイントをお話ししたいと思います。
 当たり前のことと感じるかもしれませんが、人材育成に取り組む上での整理として、ご参考にいただければ幸いです。

1.状況の考察

 よくあるのは、次のような状況がきっかけとなり、システム刷新を企画して経営層へ上申するケースです。

  • 現行システムのハードウェア・OSの保守切れ
  • COBOL・RPGなど対応できる技術者の枯渇化
  • (上記のような要因により)ITベンダー側からの刷新提案
  • 社内IT従事者の高齢化により体制維持が難しい  など

 この場合、投資が相当の規模となりますが、技術的な説明にばかりフォーカスしてしまい、投資効果で腹落ちさせることが出来ず、前に進めなくなることがあります。
 システムの維持管理の視点で計画するため、「システム停止リスク回避」「業務の標準化、効率化」などの定性効果が主となり、定量効果(ROI)の提案が不十分になることが原因となります。
 そのため、経営層からは「なぜそのような規模の投資になるのか?」「投資効果は何か?」「他に解決策は無いのか?」「現行システムを何故そのまま使えないのか?」というような疑問があがり承認が得られないという現象に陥るのです。

2.脱レガシーシステムの実現に向けて

 レガシーシステムは構築してから長期間が経過していますが、一方でビジネスや経営の環境は年々変化しています。例えば製造業では、競争が激しく短納期、低コスト、高品質・サービスを求められ、更なるITの有効活用やデジタル化によるビジネス変革、つまりDXが求められる時代となっています。
 例えば、データの活用を図ろうとしても、粒度や情報項目不足などの課題があるため時代に沿った要求への対応が難しく、更にシステム間や情報間の連携などの機能も弱いため、自動化等の実現が困難です。
 レガシーシステムのベースとなる業務プロセスも、長期間にわたり大きく変わっていないため、世の中の変化に対応しきれないとも言えます。
 更に言えば次のような課題も多く潜んでいる可能性があります。

  • 部門間のトレードオフの課題を個別最適で対応
  • EXCELによる人の手の処理が多数存在
  • 業務の属人化、ブラックボックス化
  • 紙による処理などムリ・ムダ・ムラが存在

 着眼点としては、基幹業務システムを刷新するタイミングで、将来に向けた経営戦略・事業戦略を達成するための業務プロセス変革を行い、それに沿った基幹業務システムを刷新・再構築するストーリーです。
 業務プロセス変革のポイントは、生産性の向上を目指した標準化であり次の事項が必要となります。

  • ムリ・ムダ・ムラが無く、業務が可視化されている
  • スピード感をもって停滞無く効率よく業務が流れる
  • 業務の動きがデータとして速やかに可視化され、状況把握と問題検知ができる

 効果の一つとして、仕事の生産性向上の観点から投資対効果(ROI)を考えると、例えば平均で一人1日あたり30分(0.5時間)仕事が効率化されると、年間で考えれば一人当たり120時間の時間効率効果が見込めます。数百名の社員規模で考えると、それ相当の効率化効果が見込めます。その点に着眼すると、基幹業務システムの刷新の目的は、「見直した業務プロセスを実現し、生産性向上を図り、経営貢献していくこと」だと考えられます。
 従って、担当役員に対してキチンとした必要性の提案を行って理解を得ることが第一歩となります。担当役員の理解と協力のもと、システム刷新を機会として更なる生産性向上や会社全体の経営課題として取り扱うように、経営層や関連事業部門に働きかけを粘り強く行っていく必要があるのです。
 そのためには、世の中のITトレンドや他社事例の情報収集を積極的に実施して、事業貢献の視点で能動的に事業側・現場側の接点を多くとり関係構築と見識・知見を増やしていくことが重要です。情報システム部門としては「依頼に対するシステム構築」の姿勢を取りがちですが、事業貢献や効果という経営・事業側目線、つまり相手目線で提案型の姿勢に変えていく必要性があるため、見識・知見を増やすことに加えて、情報システム部門の意識変革(マインドセット)に取り組んでいくことが最重要だと考えます。
 これらは容易ではなく「言うは易し、やるは難し」ではありますが、事態の打開に向けて受動態から能動態に意識変革し、あの手この手を打っていくことが大切です。

著者プロフィール

オフィスJOE

小林 譲 氏
Yuzuru Kobayashi

  • 1980年 富士通株式会社入社
  • 1985年 大日本スクリーン製造株式会社入社
    (現在の株式会社SCREENホールディングス)
  • 2009年 同、情報システムグループ グループ長
  • 2014年 SCREENホールディングス IT企画室長
  • 2015年 SCREENシステムサービス 代表取締役社長
  • 2019年 同、会長
  • 2020年 同、顧問(非常勤)
  • 2021年 同、顧問退任
  • 現 特定非営利活動法人 CIO Lounge 理事