コラム

匠が斬る

[Series4:SCM改革]
第3回_ S&OP実現に向けた施策

1.One Plan の考え方

前回のコラムでは、解決すべき SCM の課題として予算に基づく事業計画と、その事業計画に基づく実行計画が一つの PDCA になっていない点を説明しました。これはつまり、事業計画と実行計画が連動していないことを意味します。そのため、S&OP を実現するためには、事業計画と実行計画が常に同期を取り合う計画の仕組みが必要になります。例えば日々の業務の中で実行計画に変化が生じると、その変化が直に事業計画にも伝達されるような仕組みということになります。最も有効な手段としては、APS (Advanced Planning System) のような高度な SCM 計画システムの導入により、実行計画と事業計画を同一の仕組み上で作成し管理する方法がありますが、現状のシステムで事業計画と実行計画を別々に作成し管理している場合でも、互いの計画を同期化する方法もあります。

いずれにしても最も重要なことは、仮想的であったとしても、あたかも一つの計画 (One Plan) であるかのような計画の同期化の仕組みを実現することです。

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2.S&OP に必要なデータ構造

S&OP では、金額と量の相互変換が必要であると述べました。これはつまり、一つの情報を量によっても金額によっても管理できるような仕組みが必要になることを意味し、そのためにはデータを多次元で管理できるデータベース構造が必要になります。下図は最も一般的な S&OP を管理するためのデータベース構造を示しており、販売軸、生産軸、収益軸、そして時間軸の四次元によって1つのデータを管理しています。そして各次元軸で管理されるデータの粒度の相関関係は、通常は生産軸<収益軸<販売軸と、生産軸粒度が最も細かく、販売軸粒度は大きく、収益軸粒度はその中間かまたは業種や企業によっては生産軸粒度に合わせる場合もあります。またさらに、一つのデータに対しての自動での上位(販売軸)への集計や、下位(生産軸)への配賦の仕組みも運用上で必要となる機能です。

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3.シナリオ マネジメント

S&OP による計画作成では、What-If シミュレーションによる複数のシナリオ(計画案)を作成し、S&OP 会議の中で設計、マーケティング、販売、生産、調達、在庫、物流、財務等の各観点から、その時に最も効果的であると判断される計画を選択できるようにする必要があります。そのため、条件を変えた複数のシナリオを短時間で容易に作成できるような計画作成システムの導入も有効な手段となります。

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4.ナレッジの蓄積

日本における SCM や S&OP の取り組みの中で、現在までに最も対応できていない分野にナレッジ蓄積とその活用があります。今後は AI (人工知能)の発達によるナレッジ蓄積と活用が活発化すると期待しており、その活用と実現は今後の企業優位性に大きな差をもたらすと考えられます。

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5.最後に

世界の各業界のトップ企業は全て、長い時間をかけて SCM や S&OP の取り組みを継続してきており、それにより現在の地位や優位性を保っています。それほど SCM や S&OP の優劣が、企業の優劣を決めると言っても過言ではありません。当コラムが、皆様の SCM や S&OP への取り組みへの機会の一助となれば幸いです。

著者プロフィール

竹内 芳久 氏

ワクコンサルティング株式会社
エグゼクティブコンサルタント

竹内 芳久 氏Takeuchi Yoshihisa

主なコンサルティング実績等

オペレーショナルエクセレンス研究所 代表パートナー
◆コンサルティング分野
ICTを活用したプロセス改善から、企業価値向上視点での生産部門 KPIの設定と活用支援、バリューストリーム視点での改善支援、マネジメント改善及び人材育成の支援など
◆著書その他
・スマート工場のしくみ(日本実業出版)
・マニュファクチャー2030未来の製造業(日経BP)
・講師: 日中協会、大阪府工業会、大学非常勤講師など