コラム

匠が斬る2

[スマートファクトリーへの道-2]
第1回_階層型製番と垂直統合トレーサビリティ

~階層型製番と垂直統合トレーサビリティ~

 「スマートファクトリーへの道-2」のシリーズの初回にあたる今回は、トレーサビリティについて考えていきたいと思います。

 トレーサビリティと聞くと障害のロットを限定し、リコールなどのインパクトを最小化するために必要なものと考えますが、より広義には品質や生産性を担保し向上させるための神経回路のようなものだと捉えることが出来ます。 開発設計者は、自身が開発した製品、部品が、製造工程において、生産性良く品質が高く製造されていることを確認し、さらに顧客・市場からのニーズに応え高品質で満足のいく提供がなされていることを確認し、問題があれば即時対応し、次期製品、部品に対しても適切にフィードバックすることが望まれます。そのため、開発設計、製造過程、市場・顧客動向の様々なデータが関連性をもって紐づくことが重要です。

 一方、部品・製品の開発設計情報、生産情報、市場情報を有機的に紐づけ、意図に沿った情報の設計を人がやるということは中々手間のかかることです。 データのラベリングをしてタグ情報を基にデータモデルの設計をしなければなりません。 各データ群は各々のデータフォーマットを持っており変換が迫られることも一般的です。 図に示すように、構造化データに関しては、各々のシステムツールにより限られた領域でのデータは管理できますが、上流から下流までの垂直統合されたデータ管理は難しいと言えます。 さらに、シリーズ1第2回で紹介した構造化データと非構造化データの仮想統合も求められその難易度が増しています。

 

 

 この大変さを解決する方法として、AIを活用することが有効です。各分野でのデータの連携と臨機応変な関連付けが可能となります。データの結び付けと必要に応じたドリルダウンがノーコードで行える有効なツールも出てきており、大手企業での採用が増えてきています。たとえば、ある大手自動車メーカーでは、設計品質、製造品質、市場品質を垂直統合し品質管理がなされているとのことです。実際の例としては、NHTSA(米国国家幹線道路交通安全局)のクレーム情報から、どの地域でどの車種にどのような欠陥が多いか、その原因はどのパーツか、その部品構成とロット管理はどうなっているか、設計を加味すると、他の車種に派生することはないかといった情報がドリルダウンで分析することが可能になっているとのことです。 膨大にあるデータ群の中から因果関係の強いデータ群を抽出しデータチェーンを形成することにより、今まで把握することが困難だった見える化を果たすことができます。 さらに、こうした垂直統合トレーサビリティのデータ連携を基に、将来予測ができることが、AIの強みでもあります。

 AIの予測には、大きく分けて4種類あります。 良否判定等を行う「二値分類」、グループ分けをする「多値分類」、結果の数値を推定する「数値予測」、そして今後のトレンド、周期を推定する「時系列予測」です。 過去、現在の様々なデータを流用し、こうした分析を行うことにより、様々な予知をすることが可能となります。 求めたい課題を明確に設定し、関連性の強いデータ群を抽出し、連携させ、結果を推定するといったことがAIのツールを使えばすでに簡単に廉価にできる時代になっています。

 製造業は、精緻なデータが集まる分野です。階層型製番を基軸(背骨)にして、ぜひ、こうしたデータの神経回路を有効活用し、ビジネスに活かしていただきたいと願っています。

 次回からは「高速通信による同時遠隔管理と場の共有」について触れていく予定です。

著者プロフィール

ワクコンサルティング株式会社
ディレクターコンサルタント

山崎 隆 氏Takashi Yamazaki

主なコンサルティング実績等

コンサルティングファーム ベレーベント代表
(公)横浜企業経営支援財団(IDEC)ものづりコーディネーター、技術アドバイザー

◆コンサルティング分野
・製造業における IoT、ビックデータ解析、AIの新しい取り組み支援
・事業計画立案 (Business Planning)
◆著書その他
・「製造業システムの基礎」 日本アイ・ビー・エム研修サービス株式会社の委託により共著 (2005.10)
・「つながる世界のソフトウェア品質ガイド」 情報処理推進機構ソフトウェア高信頼化センター監修 共著 (2015.6)
・「テクノロジー・ロードマップ ICT融合新産業編 2020-2029」 日経BP社 共著 (2020.3)
・講師: IDEC(横浜市)、ソフトピアジャパン(岐阜県)、NTTデータ 他など