コラム

匠が斬る2

[スマートファクトリーへの道-1]
第3回_データ制御による自律的最適化によって成しえる、将来のスマートファクトリーの姿

~将来のスマートファクトリーの姿~

 「スマートファクトリーへの道-1」のシリーズの最後にあたる今回は、先進的なスマートファクトリーの姿について思い描いてみたいと思います。

 皆さんの中には無人工場の現場の様子をご覧になった方も多いかと思います。いわゆるロボットがロボットやサーボモーターを作るファナック株式会社 や 株式会社安川電機の事例が有名です。ここでは無人搬送車AGV(Automatic Guided Vehicle)により部品が補充され、多関節のロボットにより組立がなされ24時間の生産が行われています。また、こうした大がかりな製品だけではなく、現在ではより身近な、カット野菜やLED電球などといった商品の生産に至るまで、その無人化が進んでいます。こうした工場内には、無数のIoTセンサーが張り巡らされ、AIによって稼働状況や品質状況がモニターされ制御が行われています。
 一方、こうした工場現場の自動化、無人化に加え、生産管理においてもフルデジタル化がなされ自動的にデータが収集され、分析・予測に基づき、最終的には自律的な管理が行われる、真の意味でのスマートファクトリーが今後、出現するものと考えています。

 先日、とある木材加工の企業を視察する機会があり、このスマートファクトリーに近い姿がすでに具現化されていることに大変驚かされました。
 以下、その概要について紹介したいと思います。
 この企業では一点一様の木工製品を個別受注生産されていますが、受注、資材発注、生産、出荷に至る業務プロセスがフルデジタル化されており、工場内では自動倉庫を起点に裁断、塗装、組立、梱包用段ボールの製作まで、ほとんど自動化が進んでおり、人が介在する作業はごく限られたものでした。
受注形態は半数近くが未だアナログですが、自社内でデジタル化されます。
様々な原板から、出来るだけ端材が出ないように個別パーツの切り出しパターンが決定され、製番とプロセス用コードを示す部材管理シートを貼った上で、ランニングソーに順次投入・カットされます。その後、各パーツに応じた加工、研磨、塗装、組立等が自動機を中心としながら人との協業で作られていました。
これを発展させると、個人宅のレイアウトにマッチした一点一様の収納家具をCADにて住宅設計することによりバーチャル空間で製品を完成させ、その部品キットを製造し迅速に出荷することも可能となります。

 第1回のコラムで書きました、階層型の製番に基づく社内システム構築の重要性、整合が取れ、互いに連携の取れた社内のフルデジタル化システム構築の重要性が、改めて認識できた視察となりました。これ無しにはロボットによる自動化など成しえないと強く感じた次第です。 現場の非構造化データ、生産管理の構造化データ、市場の非構造化データが有機的にかつシームレスにつながることが、これからとても重要になると考えています。

  一方、こうしたフルデジタル化のための受注データや生産実績把握のためのPLCデータなどに加え、第2回コラムで紹介した、IoTセンサーから得られた品質管理上の「非構造化生データ」や市場・顧客からクローリングされた「ビックデータ」等も、品質確保や生産計画、工程管理、個別原価計算など様々な生産管理の局面で重要な鍵となります。

 ここで改めて、ビックデータの管理の段階について整理してみます。ビックデータ管理は大きく三つのステージで進化が進みます。レベル1は、現在行われているIoT(Internet of Things)センシングやオープン環境からのクローリングデータの中から有益な情報を見極め、収集することにより、状態を見える化し、得られた気付きを知見やノウハウとして蓄積するステージです。レベル2は、こうした膨大な情報を分析・学習し、目的に寄与する因子の抽出や事象のモデル化、将来予測を行うステージとなります。さらにレベル3では、蓄積した知見やノウハウ、構築したモデルによる将来予測を基に、自律的に最適な判断・実行を可能とするステージとなります。
   
   

 
  現在、多くの企業ではレベル1のいわゆる「見える化」が図れる段階に来ており、次のレベル2、分析や予測ができることにフォーカスされているかもしれません。 ここで言う将来のスマートファクトリーでは、生産管理の自動化のために、まだ成しえていないレベル3の領域が必要になるでしょう。

  市場データや販売管理データ、配送データ、保守データ、在庫データ、生産実績や歩留まりデータなどを加味した上で、人工知能(AI)ソリューションにおいて生産量を決定し、部材の発注をかけるといった無人の生産管理システムと、ロボット、AGV(Automatic Guided Vehicle)による現場の無人化との相乗効果により達成されるスマートファクトリーの姿が、10年以内に出現するものと考えています。 

  次回からは「スマートファクトリーへの道-2」に移行します。 ここではデータ制御で成し得る新たな展開について、いくつかの視点で考えていきます。 その1回目では、現実に立ち返り「階層型製番と垂直統合トレーサビリティ」について触れていく予定です。

著者プロフィール

ワクコンサルティング株式会社
ディレクターコンサルタント

山崎 隆 氏Takashi Yamazaki

主なコンサルティング実績等

コンサルティングファーム ベレーベント代表
(公)横浜企業経営支援財団(IDEC)ものづりコーディネーター、技術アドバイザー

◆コンサルティング分野
・製造業における IoT、ビックデータ解析、AIの新しい取り組み支援
・事業計画立案 (Business Planning)
◆著書その他
・「製造業システムの基礎」 日本アイ・ビー・エム研修サービス株式会社の委託により共著 (2005.10)
・「つながる世界のソフトウェア品質ガイド」 情報処理推進機構ソフトウェア高信頼化センター監修 共著 (2015.6)
・「テクノロジー・ロードマップ ICT融合新産業編 2020-2029」 日経BP社 共著 (2020.3)
・講師: IDEC(横浜市)、ソフトピアジャパン(岐阜県)、NTTデータ 他など