コラム

匠が斬る2

[生産技術から見たDX-3]
第3回_品質管理におけるDXオポチュニティ

1.トレーサビリティの重要性

 品質管理においては、履歴管理の重要性が増してきています。近年はトレーサビリティという言い方が多いようですが、製品番号にロット番号、製造状況、検査実績などを紐づけして後で必要が生じた時に追跡できるようにすることがトレーサビリティ管理です。これにより問題が発生した時の必要な対応範囲を特定し、素早く品質の問題へ対応することを狙います。

 このトレーサビリティ管理で必要となる現場から収集するデータとしては、生産日時、材料ロットNo、生産ロットNo、製品識別No、材料不良、工程不良の品目、数、内容、原因、手直し有無、検査結果、テストデータなど製造品質に関するアイテムが挙げられます。

 加えて担当作業者、使用設備、金型No、治工具番号、設備修理の有無などの情報も履歴管理の重要なベース情報になります。必要に応じてさらに、温度、湿度、圧力、濃度、加熱時間など製造条件も、収集してデータベース化する対象アイテムになります。さらに検査を独立して行う工程を持つような場合は、検査内容、測定データ、判定結果のデータなども収集すべき対象に加わります。

 全社的に活用するという視点では、これらの製造情報に加えて製品開発時の設計変更の有無、試作時の問題、実験データや、デザインレビューでの判断や疑似などの開発情報も加えておくと、品質関連データが一元的に管理できるようになり、何かあった時の対応力が大きく向上します。

 

 

2.品質改善におけるデータ活用

 前述のトレーサビリティ管理のために蓄積するデータは、工場におけるQC活動と言われる現場での小集団活動などにおいて積極的に活用されることも期待できます。必要であれば、現場にある詳細データを追加で収集し、統計的手法やQC7つ道具と呼ばれるデータ加工のツールを使って、平均、分散なとの特性値算出や、パレート図、ヒストグラムなど見える化を図ります。このような機能はEXCELの標準機能としても付いており、すでにいろいろな局面で活用されています。今後は専用の解析ソフトウェアやAIを活用した複雑で高度な複合要因を持つ原因解析についても、ますます多くの対策事例が出てくることが期待されます。

 全社的にみると市場における品質情報の集約は一層重要です。市場クレームから顧客の小さなフィードバックまでを同様のデータベースとして集約し、製造のデータベースと連結して一元的に管理できればベストです。これらのデータは製造現場の改善だけでなく製品や設備の設計や開発にも活用できるように工夫し、エンジニアリングチェーンにおけるいろいろな局目での品質保証活動に活用できるようにすることが重要です。このようなデータの活用は今後の目指すべき姿になるはずです。

 

3.品質関連データの収集

 このように重要さを増す製造現場の品質関連情報ですが、情報の収集は他の実績情報と同様に正確性、タイムリー性が要求されます。これらの情報は生産実績を収集する際の入力とは異なり、バーコード入力や自動入力をどんどん拡大していけるわけではなく画面からの選択入力やキーインなども併用することになります。進んだ計測機器では測定値をすぐデータベース化したり解析したりする機能を有していますが、設備のシーケンサーやセンサー類から製造情報もIoTを有効に活用し自動的に吸い上げるなど、作業者の入力負担を小さくしていくことが重要です。

 最後になりますが、今後期待される品質保証DXの可能性としてビッグデータとAIの組み合わせによる不具合予防についても可能性が拡がってきました。皆さんも知っている地震予測システムは、地震計による継続的な揺れの波形を解析し地震予測のアラームを出すまでに進化しました。簡単ではありませんが品質不良や設備故障を防ぐシステムのベストプラクティスとして参考にし、大きく進展することを期待して筆をおきます。

著者プロフィール

竹内 芳久 氏

ワクコンサルティング株式会社
エグゼクティブコンサルタント

竹内 芳久 氏Takeuchi Yoshihisa

主なコンサルティング実績等

オペレーショナルエクセレンス研究所 代表パートナー
◆コンサルティング分野
ICTを活用したプロセス改善から、企業価値向上視点での生産部門 KPIの設定と活用支援、バリューストリーム視点での改善支援、マネジメント改善及び人材育成の支援など
◆著書その他
・スマート工場のしくみ(日本実業出版)
・マニュファクチャー2030未来の製造業(日経BP)
・講師: 日中協会、大阪府工業会、大学非常勤講師など