製造業におけるDX化(Digital Transformation)は、多くの場合デジタル化による飛躍的な変革を狙いとして位置付けられています。デジタル技術は、ここ数年で格段の進歩を見せているので、企業の大小を問わず様々なDX化を積極的に推進できる大きな可能性が出てきていることは間違いないと思われます。自分のニーズに応じて自部のDXを定義し、合理化や効率化につながる活動を自由に進めることが重要です。
1.多品種少量生産における工程管理システム
製造のど真ん中に位置する工程管理においても、このDXを活用した大きな改善が期待されます。工程管理におけるシステムは、MES(Manufacturing Execution System)と呼ばれますが、ベース機能である生産指示と実績収集に様々な機能が追加され、様々な形に進化してきています。この中でも従来から課題となっているテーマとして多品種少量生産におけるスケジューリングがあります。スケジューリングは生産計画を受けて製造の実行計画、すなわち部材の投入指示を作成しますが、自動化された設備の場合は多くの場合生産技術が担当し、相手が人の場合は製造部署が担ったり生産管理部署が担ったり、部署間のはざまに位置しているので会社により担当する部署も異なっています。
スケジューリングは、生産計画、納期、在庫状況、設備の生産能力、段取り時間、稼働、歩留り、不良率などをいろいろな条件を考慮しながら、どのようなロットサイズで、どの順で作っていくかを決定する重要なプロセスです。しかし考慮すべき条件の多さや複雑さから標準化やIT化を進めにくい分野の一つであると思います。結果的に、毎日の朝礼で管理ボードを使いながら全員で合議するとか、長年の経験と知見を持つベテラン担当者に頼らざるを得ない状況が長く続いてきた業務です。

2.スケジューリングの改善余地
スケジューリングは、前述した状況から経験と勘と度胸、いわゆるKKDがまだまだ生きている世界とも言われています。過去にはきめ細かく要件に対応して開発したスクラッチシステムや初期的な機能のAI(Artificial Intelligence)を適用して改善を試みた例もありましたが、高いシステムになってしまたり、限定的な部分しかカバーできなかったりで成功例は限定的であったと思います。
さらにこのスケジューリングを難しくさせている問題として計画変更があります。生産計画を一旦確定した後でも様々な理由で生産実行を変更させる必要がでてきます。お客様からの要請といった外的要因から、設備故障、欠品、不良発生といった内部要因など原因を上げると尽きることはありませんが、対応しようとすると副作用で他にほころびが出るなど掛け算のように複雑さを増していきます。これらの困難な問題に対してシステムで対応をしようとすると部分的な機能で大きな可能性を持つのは、やはり近年いたるところで飛躍的なソリューションを提供しているAIであると思います。AIはディープラーニング機能を身に着けて飛躍的な機能向上を果たし、囲碁や将棋の名人にも勝利するまでになっています。この多品種少量生産における前条件、制約、変化から来る複雑さは、ある意味取った駒をまた使える将棋のような複雑さを持っているというと言いすぎでしょうか。私は若い人の研修講師を務めることも多いのですが、その際にはこの困難なテーマに対して若くて柔らかい頭でぜひチャレンジして欲しいといつもお願いしています。
3.工程管理システム(MES)の機能拡大
近年のMESは、いろいろな機能を持つようになってきました。安くて手軽なセンサー類の進化とIoTの活用でこれまで取れなかったデータが取れるとか、ちょうどよいソフトウエアパッケージを見つけてこれまでにない解析ができたなどの事例は、既にいろいろな所で耳にします。
このようにベース機能である生産指示においては、スケジューリングの機能の高度化、実績の収集に関しては生産実績の収集が、大きく効率化されつつあります。ラベルRFID(Radio Frequency Identification) を活用し、バーコード入力や自動入力が大きく進展してきました。その上に追加されている機能では、作業管理、履歴管理を含む品質の情報管理におけるシステム構築にウエイトが置かれています。次回以降にこの二つの機能をクローズアップし取り上げていく予定です。